流刑地の少年と植民地の少女 『やけっぱちのアリス』 - ポエツ | poets

Logs

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
alice_y.jpg中国の経済が爆発的に発展し、北京オリンピックも目前に迫るなか、日本では格差社会が到来し、非モテ、キモヲタにメイドさんが街を徘徊する。ニートと呼ばれる人々やひきこもり、不登校に自殺が増加、学校でのいじめも深刻化し、FC2ブログのサーバがクラッシュし、日本中が萌えに萌え上がっている昨今。こんな時代だからこそ『やけっぱちのアリス』じゃないかと思う。
なんつって。たしかに時代を先取りというか、前述のキーワードがすべて絡まってくる作品だけど、時代性なんて単に循環しているだけなのかもしれない。私が学生のころ出会った作品、島田雅彦の『やけっぱちのアリス』は、もともと『流刑地より愛をこめて』の題名で1995年に刊行された。10年経った今こそ、この作品が「いま現在」を描いているように見えるのは、時代が一巡して同じところに差しかかったからなのだろうか。

手塚治虫の傑作『やけっぱちのマリア』を遠くに眺めながら、現在十代の女の子たちが様々にやけっぱちになることを肯定しようという気持ちの表われくらいに取ってもらいたい。私自身、高校時代はもう少しやけっぱちになってもよかったな、という後悔の念もある。
--文庫版「あとがき」より


『やけっぱちのアリス』は、この頃の島田雅彦の特徴的なリズミカルな文体で読みやすく、展開や登場人物はマンガ以上に「マンガ」的な学園恋愛コミックである。
断続的な連載だったためか、物語の構成としては破綻気味の部分もある。空也と言う不登校の少年は、おそらくもっと物語に関わってくる予定だったと思われるが、序盤で消えてしまい本筋に結局からむことはない。明らさまな伏線はないので、伏線が回収されてないわけではないが、空也が取ってつけたようにエピローグを締めるのも構成としては不安定だ。
なぜこうなったかを憶測すれば、いわゆる「キャラクターが勝手に動き」出してしまったことで、空也は押しのけられてしまったのだろう。そう思えるくらい登場人物たちは活き活きと動き回る。このキャラクターたちは見事にマンガ的ステレオタイプだ。

だから、物語は美少女が転校してくるところから始まらねばならない。アリゾナの砂漠からやって来た彼女は砂山アリス。

 植民地(コロニー)という言葉が浮かんだ。そう、どこにいても、アメリカにいても中国にいても、日本にいても、結局アリスは誰のものでもない植民地にいる。


そしてアリスと恋に落ちるのは、体操で鍛えた美しい筋肉を持つ蔦麻呂。

きょうも爽やかね。
雪姫は蔦麻呂の肩に手を触れる。蔦麻呂はつい、”爽やかな顔”で彼女に微笑みかけてしまう。


「雪姫」とは誰が言ったかポーランド人との混血だと噂される、色白の美貌を持つ英語教師。

 小夜吉は雪姫のあしらい方が上手だった。雪姫は雪姫で、自分の最大の武器である三十代の退廃的な美貌が通用しない小夜吉のようなタイプの男を苦手にしていた。彼女の好みは蔦麻呂だった。年上の女の甘えをしようがないなあという態度で受け容れてしまう青年だけを身辺にはべらせて英語の授業ができるなら、学校はハーレムになるだろう。


蔦麻呂を狙っているのは雪姫先生だけではない。蔦麻呂に憧れ、自分を仮託する非モテ・キモヲタ、〈蔦麻呂の体を作り上げた後の残りの肉を寄せ集めて作られた〉同級生の小夜吉。

 愛する者には自分のハンディをちらつかせながら、徹底的に献身せよ。時々、相手に借りを返させるようにしながら、いつも自分の貸しが上回っているようにせよ。
 ねえやが自分の左足用のハイヒールを小夜吉にプレゼントした時の言葉を小夜吉は一字一句覚えている。
 あなたにはたくさん、ハンディがあるわ。背が低くて、美男子じゃない。顔に特徴がない。それほど勉強ができるわけじゃない。そのうえホモよね。あなたが選ぶ道は一つよ。
 出会った人全てに貸しを作りなさい。


小夜吉にそう説いたのは「ねえや」。今でこそ破産したものの、小夜吉の父はITベンチャーで一財産を築き、そのころ家政婦(メイドさん?)兼小夜吉の家庭教師として女子大生のキレイなおねーさんを雇っていたのである。

 小夜吉くん、相変わらずお友達からいじめられているの? こっちへいらっしゃい。上手にいじめられる方法を教えてあげるから。いじめられるのってコツさえ心得れば、楽しいゲームみたいなものよ。


破産しているのは蔦麻呂の家庭も同じだった。父は借金のカタに息子を中国人の資産家・リンランに奪われている。

よほど怖しい女だろうとテレビアニメの魔女の容姿と声を勝手に当てはめて、その中国女の肖像を描いていた。ところが実際に会ってみて、蔦麻呂は戸惑い、赤面した。物腰の優雅な八頭身の美人がにこやかに微笑みかけ、木彫りの上海蟹の形をした小物入れを土産にくれたのだ。念入りなことに甲羅の中には小遣いの五千円が忍ばせてあった。今にして思えば、あの時すでに蔦麻呂は買収されていたのだ。


蔦麻呂に影のごとく付きまとう小夜吉と同じく、アリスを狙うのは、美しく長い黒髪をもつ帰国子女にして茶道部の部長、押切花代。

 私もゆかりもかの子もミツコも”キコク”なんだ。


小夜吉は蔦麻呂を追い、花代はアリスを追う。

 二人を引き離したいんだろ。それはぼくも同じさ。
 このままじゃ私もあなたも不幸になる。あの二人だって時が経てばお互いに傷ついて分かれる結果になるんだわ。 私はアリスが傷つく前に、純潔を失う前に、深く愛しあいたいの。


だが蔦麻呂はアリスを連れて逃げ出す決意をする。

逃げちゃえばいいじゃない。
逃げたらぼくの居場所がなくなるだけだ。
逃げたところがあなたの居場所になる。


学校も高台の邸宅も流刑地みたいなとこですよ。流刑地からまた何処かの流刑地に行くだけです。先生、止めても無駄ですよ。オレはもうアリスのことしか頭にないんだから。


流刑地の少年は、植民地の少女を連れて逃げ出すことができるのだろうか?
ま、結末は買って読め! こんな時代だから、『やけっぱちのアリス』を強力推薦します。せっかく設定がコミック的にまとめられているので、ドラマ化・映画化もしやすいと思われ。ていうか希望しますです。
(記事中の引用部はすべて、新潮文庫『やけっぱちのアリス』より)

comment


  管理者にだけ表示を許可する

trackback

用FC2,寫部落格日誌也都簡單阿!

検索語抽出

ポップアップ・コメント

poets designed

Ajax検索
AD

台湾留学 完全サポート

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。